【究極の焼き芋】甘味成分を最大化する「6時間焼き」の方法を調査してみた【理系メシ】

究極に甘い焼き芋の作りかた
まずは、ご覧あれ!

この艶、このやわらかさ、このとろけ具合。
こんな焼き芋を見たことがあるだろうか?

そして、この蜜!
焼き芋がまるで大学芋のように蜜にまみれ、内側から蜜がしたたり落ちている!
あまりの糖度に、冷凍してもシャーベットのように食べられる。
ねっとりと口の中で溶け、小布施の栗かの子さえ負けるかもしれない、上品な甘み。
焼き芋の概念をひっくり返す、ただの焼き芋をスイートポテト以上に甘くしてしまったのが「焼き芋pukupuku」の須藤さんだ。
この信じられない、超絶あま〜い焼き芋を、今回は自宅で再現してしまおうというのである。

西大井駅から徒歩10分、普通の一軒家の前にはためくのは……

やきいも!

おお! 焼いてますね。
普通の家の前に釜があるというのもすごいな。
噂の焼き芋屋さんに、究極の焼き芋の秘訣(ひけつ)を聞いてみた


──どうもです。今日は最甘焼き芋の技を盗みに来ました。

こちらの須藤さんは実にユニークな生き方をしている人で、普段は山の中で羊を飼って暮らしている。

意味がわからないと思うけれど、リアル羊飼いなんですね。
須藤さんが羊を飼い、奥さんが羊毛で糸を編んでいる。
家も自分で建てて、水も電気も自分でどうにかしてしまった。
21世紀版『大草原の小さな家』みたいなご夫婦なのだ。
そして夏はずっと山の中で暮らし、冬は東京・大井町の実家の前で究極の最甘焼き芋を売っている。


──マムシ酒? マムシを捕まえたんですか?

ワ、ワイルドな人だなあ。

うわ、効くな、これ。

──アオダイショウにヤマカガシも漬けちゃったんだ。……って、蛇酒の話は置いといて、今日は焼き芋のことを教えてください。なんでも、焼くのに6時間ぐらいかかっているんですよね。

──芋は普通の芋?


須藤さんが焼き芋に凝り始めたのは10年ほど前のこと。
知り合いから畑を借りたことがきっかけで、作物を作って製品に加工して消費者に売るという一連の流れを自分でやりたくなった。
そこで始めたのが焼き芋。
焼き芋なら、サツマイモを植えて収穫し焼いて売るところまで自分でできるからだ。

──試行錯誤におよそ10年。

──いや、それにしてもこの蜜はすごい。これ、どうやって作るんです? ダメ? 教えられない?

朝6時半に火を入れて、10時のオープンには出せるというから、焼くのは最低でも3時間。
その前に下準備があるらしい。

おっと出来立て!
やっぱりすごいな、この甘さは。
身がとろとろだ。
アルミホイルにくるんで焼くんだ、なるほど。

持ち帰りは真空パックで。
真空パックにしないと蜜でベタベタになってしまうのだ。
「究極に甘い焼き芋」は、自宅でも作れるのか

さて、焼き芋の基本はデンプンの糖化で、科学的なポイントは2つ。
1つ目は「糊化」。
焼き芋の甘さはデンプンが2段階に変化して起きる。
まずデンプンが加熱されて糊化デンプンに変化する。この変化が起きるのが60度からスタートし、加熱とともに進む。
次に糊化したデンプンにアミラーゼという酵素が作用し、麦芽糖に変化させる。
これが甘味と蜜の正体だ。
アミラーゼが活性化する温度は60~70度で、80度を超えると活性が急減し、90度でほぼ作用しなくなる。
つまり60~70度で長時間加熱してやれば、デンプン→糊化デンプン→麦芽糖の変化が限界まで起きるはずだ。
60~70度で長時間加熱といえば、炊飯器の保温機能である。
ということで、さっそく炊飯器にサツマイモを放り込み、6時間保温してみた。

次にアルミホイルで包んで石焼にする。
石は金魚用の底砂(298円)を買ってきた。
100円ショップの砂で十分。
厚手の鍋に敷き、とろ火で1時間。余分な水分を飛ばし、甘味を凝縮させる。

あれ? 蜜がないぞ……おいしくない。
──おーいそこの嫁、ちょっとこれ味見、どうだ?
「あはははは!」
──なんだよ?
「フナのエサ! 昔、父がよくお芋をふかして作っていたのよ、釣り行く時に。懐かしい!」
……フナのエサかい。
失敗か。次だ次!
別のやり方があるはずだ

水から加熱したのが良くなかったのかもしれない。
内部まで温まるのに時間がめっちゃかかったのだ。
今度はお湯に入れて6時間。
石で焼く時間も2時間に延長だ。
どうだ?

うーん、だめだ。糊化してない。
全然、まったく糊化してない!
ボソボソでおいしくない。
……蜜はどこだ!
試行錯誤の連続
ここからが大変だった。
煮ては失敗、焼いて失敗、炊飯器をサツモイモに占拠され、夕飯はうどんとピザとラーメンである。
すまぬ、家族。

そして最後の最後(5回目くらいか?)、もはやこれまで!
最後にある方法を試してみた。
アルミホイルを開けてみると……

やった!
蜜だ! とろとろだ!
いや苦労したした。
須藤さんのところの焼き芋には及ばないものの、スーパーで買った安いサツマイモからたっぷりと蜜を出すことに成功した。
うまいぞ! 甘いぞ! とろとろだぞ!
どうやら、「糊化」がポイントだった。
糊化しないとアミラーゼが働かない。
だから最初に「いかに芋全体を糊化させるか」が分かれ目だったのだ。
私のやり方は以下。
【秘伝】焼き芋の甘み成分を最大化する方法 ver.1.5
- アルミホイルで包んだサツマイモを1~2時間、石で焼く(火は超とろ火で)。熱くなりすぎるようなら火を止めて余熱を使う。
- 触ってみて、全体がやわらかくなったら、糊化完了。焼いたサツマイモを70度前後のお湯と一緒に炊飯器に入れ、保温で4時間。ここでアミラーゼにより蜜を製造。
- お湯から出し、再び石で焼く。この時、アルミホイルは開けておき、水分が外へ逃げるようにする。様子を見ながら1~2時間、低温で焼く。ようやく身から蜜が染み出た。
もっと簡略化できそうな気もするが、今回はこれが精いっぱい。
商品として、はるかに高いレベルのとろとろ甘々焼き芋を作る須藤さんのすごさを痛感した。
あっぱれだ!
お店情報
焼き芋pukupuku
新刊情報
『理系メシ』を執筆している川口友万さんの新刊が発売されました。つけめんはなぜぬるいのか? うま味とは何なのか? など、ラーメンの不思議を科学の視点から調べ上げた一冊です。

- 作者: 川口友万
- 出版社/メーカー: カンゼン
- 発売日: 2017/12/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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